ロータリーエンジン発電で航続距離を2倍にした「マツダ RE レンジエクステンダー」 |
マツダは12月20日、ロータリーエンジン発電で航続距離を2倍にするEV(電気自動車)「マツダ RE レンジエクステンダー」の技術説明会を開催した。デミオEVをベースに開発されたRE レンジエクステンダーは、330ccの新型ロータリーエンジンを搭載している。
このロータリーエンジンで発電を行うことで、航続距離をデミオEVの200kmから2倍の400kmに引き上げた。燃料はレギュラー ガソリンで、燃料タンク容量は9L。燃料タンク容量を増やせばさらなる航続距離を実現することは可能だが、米国のレンジエクステンダーの定義づけの部分 で、ベースとなったEVの航続距離の2倍以上とならないよう定められているため。逆に言えば、400km(200kmの追加)とするため、燃料タンク容量 が9Lに抑えられている。
RE レンジエクステンダーは、デミオEVにロータリーエンジンと一体になったレンジエクステンダーユニットを搭載した車両と言える。レンジエクステンダーユ ニットは、デミオEVのリアアンダーフロア下に配置されるほどのコンパクトな仕上がり。このコンパクトさを実現するために新開発されたのが、水平配置可能 なよう設計された330cc×1ローターの新型ロータリーエンジンだ。
ロータリーエンジンが発電用の動力に選ばれたのは、マツダを象徴するエンジンということもある。しかし、マツダのスタッフによれば、 それ以外にも明確なメリットがあり、「静粛性に優れている」「エンジンがコンパクトである」ほか、ロータリーエンジンの燃料対応力の高さがあるとする。
米国で起きているシェールガス革命をはじめ、世界各国ではガソリン以外のLPGやCNGなどの燃料の利用を増やそうという動きがある。それらに対応するグローバルモデルとするためには、マルチフェールのポテンシャルが高いロータリーエンジンは有利なのだという。
発電は、最高出力22kW/4500rpm、最大トルクは47Nmくらいというロータリーエンジンで、定格出力20kWのジェネレー ターを駆動することで行う。ジェネレーターを高効率に駆動するため、ベルトを用いてエンジン回転数の2倍で駆動。これにより約5%の効率改善を実現したと いう。
330ccのロータリーエンジンも、ユニットの全高に配慮し、吸気はハウジング高が高くならないようにペリフェラルポートを採用。し かしながら、排気は全高が高くなるサイドポートを採用。この点については、「ペリフェラルポートだと排気音がうるさくなってしまうため」とのこと。爆発後 の排気はエネルギーが高いため、サイドポートのほうが、その減衰をコントロールしやすいのだろう。
技術説明会会場には、新型ロータリーエンジンとの比較として、RX-7などに搭載された13B型ロータリーエンジンも展示されてい た。13B型は654cc×2のエンジンのため、1ローターの比較では新型はおよそ半分の排気量となる。ロータリーエンジンの開発過程で必ず語られていた のが、ローターとハウジングの気密を保つシール類について。ローターの3つの頂点に配置されたアペックスシールと、それを保持するコーナーシールやロー ターの横に配置されたサイドシールだ。13Bのローターと新型のローターでは、サイドシールの位置が異なっており、これは新たな知見に基づく変更だとい う。意図としては、サイドシールがコーナーシールにぶつかる部分をより鉛直にしたかったとのこと。より鉛直にすることで、気密性を上げやすくなるとのこと だ。
また、燃焼室が常に動いているロータリーエンジンではツインプラグを採用。従来は2本のプラグ(リーディング側とトレーリング側)が ハウジングに対して平行に取り付けられていたが、新型ロータリーエンジンでは外側がやや開いたような角度で取り付けられている。これにより燃焼状態の改善 が見込めるとしている。
これら最新のロータリーエンジン技術のベースにあるのが、現在でも開発を続けているという次世代RENESIS「16X」だ。 2007年に開発発表が行われ、その後も開発を続けているようで、このレンジエクステンダー用新型ロータリーエンジンに採用されたトロコイド曲線は、 16Xの縮小版だという(16Xの排気量は800cc×2)。16Xでは、アルミハウジングの採用に関しても言及されていたが、この新型ロータリーエンジ ンもアルミハウジングを開発しているそうだ。
新型ロータリーエンジンで気になるのは330ccという排気量。1ローターで330ccであれば、2ローターでユニットを構成すれば 総排気量660ccのエンジンができる。自動車税の区分上1.5の係数(通称ロータリー係数)がかけられるため単純に軽自動車向けパワートレーンとはでき ないだろうが、環境のためのダウンサイジングが業界のトレンドとなっている今、ターボにはない係数がロータリーエンジンにだけかかるような状況は、そろそ ろ解消されてもよいように思う。
軽自動車向けユニットの可能性をマツダの役員に確認したところ、「まったく考えていない」とのことだった。330ccという仕様は、レンジエクステンダーとして必要十分な発電パワーと車両への搭載性を考慮したためとのことだ。
マツダは、新型ロータリーエンジンを搭載したポータブル発電機を作るというコンセプトも提示。プロパン、ガソリン、カセットガスなどマルチガスへの対応性、コンパクトながら高出力(15kW~20kW前半)を実現できる点がアドバンテージであるとした。
未完成ながら、試作1号車にしてはまとまっている「RE レンジエクステンダー」
技術説明の後、デミオEVとRE レンジエクステンダーに試乗することができた。デミオEVは法人や自治体向けにリースが行われているモデルで、モーターやバッテリーを組み込むことでデミ オをEV化している。ベースのデミオからは、約200kgの重量増。一方、RE レンジエクステンダーはそのデミオEVに約100kgのレンジテクステンダーユニットを搭載したもの。ガソリン車のデミオと比べると約300kgも重く なっている。
メーターパネルはデミオEVと変わらない。本来はレンジエクステンダーユニット用の燃料計や、発電状態を示すインジケーターなどが あってもよさそうなものだが、試作1号車のため何もついていないとのこと。センターコンソールの「EMERGENCY」ノブが目立つが、これはマツダの社 内規定で試作段階では即座にシステムダウンできるよう取り付ける必要があるとのこと。EV部分は問題ないものの、レンジエクステンダーユニット部が試作扱 いのためという。
デミオEVとの比較試乗をマツダR&Dセンター構内で行ったが、走りに関しては重くなったリアまわりの違いを感じるだけで、現段階で比較するものでもないだろう。
レンジエクステンダーユニットの動作は、10km/hになったら1500rpmで始動、その後は車速とリニアにエンジン回線数が上 がっていくもので、10km/hを境にした始動と停止は小さなショックを感じる。ただ、ローターが水平に回る構造のためか、始動・停止のショックは予想よ り小さなもので、開発が進めば気にならないレベルになるだろう。回転数が上がっていくと、エンジンの音よりも駆動ベルトのかすかなキュルキュル音が目立ち 始める。この音に関して同乗したマツダのスタッフは、「レンジエクステンダーユニットが近くなる後席のほうが、より聞こえる状態になっている」といい、音 や振動がどこで発生しているのか、試作車両で確認している段階のようだった。
マツダがRE レンジエクステンダーを開発するのは、世界的な燃費規制の流れと米国カリフォルニア州においてはある一定量のEVと、PHVもしくはレンジエクステンダー EVの販売が必要となるため。その際に単なるEVを販売するのでは市場で埋没してしまい、それがガソリン車・ディーゼル車販売枠の縮小につながる。そうな らないためには、個性的でありながら高い商品力を持つクルマが必要だ。ロータリーエンジン搭載のレンジエクステンダーは、そのようなクルマとして作られて いるのだろう。
このロータリーエンジン搭載のレンジエクステンダーが生産に移ると、現在は止まっているロータリーエンジンの生産ラインが動き出すこ とになる。ポータブル発電機が登場するとさらに生産数が上がり、通常のエンジンとは異なる加工が行われるロータリーエンジンの生産コストも下がるだろう。 マツダを象徴するロータリーエンジンが新たな競争力を持って、再び市場に登場することに期待したい。
URL
- マツダ株式会社
- http://www.mazda.co.jp/
- ロータリーエンジン
- http://www.mazda.co.jp/philosop
hy/rotary/ - 16X
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リサーチ:テック サイバーファーム ウェア(半田貞治郎)